神戸市東灘区のJR[摂津本山]駅 または阪神電鉄[青木]駅 徒歩15分に位置するうはらクリニックは、ろっこう医療生活協同組合が運営する「地域住民による住民のための診療所」です。

わが国初めての?認知症検診と神戸モデル

 「今度、Hさんが奥さんつれて診察に行くからよろしく。」900円のランチのボリュームに惹かれて週1回は通っている喫茶店のママが頼んできた。夜はスナックみたいになっており酒も置いているので、爺さんたちが昼からビールや焼酎を飲みながら長逗留できる地域の「居場所」である。Hさんの連れ合いがもう半年も外出できずに夜は幻覚や幻視におそわれるということで、やっとこさ連れてきて、結果は甲状腺機能低下と認知機能低下であった。訪問診療を始めようとしたら費用負担が大きいため難色を示され、クリニックの車で送迎することで決着した。

 困り事を相談できて、アドバイスしてくれるのはソーシャルな相談所ばかりでなく、日常生活でのつながりの保てる場所だとおもう。その意味では神戸ならバーだとかカフェとかもセーフティーネットであって、地域にそのようなより所を持っておくことは大切なことだと60才を過ぎて実感する。私も退職後はこの喫茶店に昼からたむろする一員になるかも知れない。

認知症神戸モデル概要

 認知症の人が事故を起こして鉄道会社から巨額の損害賠償を求められることがあった。そのこと自体ナンセンス!!ではあるが、このことが発端で認知症の人を救済しよう、早期発見しようという論議となり認知症対策「神戸モデル」が今年から始まった。65才以上に無料検診で診断がされると事故救済制度やGPS利用の補助を得られる仕組みである。(図表)一次検診は長谷川式スケール20点以下または、BPSDについての問診で疑い、「地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)」31点以上で二次検診(これも費用負担なし)に誘導する。

図表:神戸市HPより
 受診の費用負担を無くしたことと賠償責任保険の保険料を神戸市が全額負担することは、受けやすく利用しやすい制度設計となっている。ただし年額3億円の予算は住民税を一律400円「公平」に値上げしてまかなうこととなった。平均3,500円の市民税が3,900円になることがあまり論議されずに決まったため今年6月からの増税後に批判がでるのではないかと思う。

認知症検診現状と今後

 わが医療生協では受診を機関誌などで呼びかけて3-6月の4ヶ月間に5診療所にて123人の総数受診者があった。(グラフ)一次検診で要精査は15%ほどであり65才以上認知症有病率に近い数字である。神戸市全体では2ヶ月間で2,549人の受診者、要精査は33.9%であるという。二次検診の受診者は400人(認知症263人65.7%、MCI86人21.5%)である。7月からは4期に分けて75才以上の市民全てに受診券が送付される予定であり、第1期4.3万人第2期5.3万人第3期5.6万人第4期8.1万人で合計23.3万人に受診勧告がなされることになる。事故救済制度の申し込みは4ヶ月で2,288人、GPS申し込みは424人と公式発表。

 受け入れ側の診療所の担当者に現在の感想を聞いてみた。

  1. 現時点では非認知症通院患者の自発的受診が多い印象だが、受診券一斉送付後の対応は混乱も予想される。また、認知症と新たな診断がついた患者については、その後に本人・家族への注意深いケアや対応が必要であろう。認知症と診断することだけが目的の検診になってはならない。
  2. 認知症については気になるが、診断されるのが怖い、恥ずかしいなどで受診したくない人も多い。認知症について地域での理解を広げていく必要がある。
  3. 認知症について不安や気になっている人には良い機会となり全て無料となるが、すでに治療中の人を事故救済制度に誘導するためには診断書が有料となることは不便である。
  4. これまでは受診券が送付されなかったため思ったより受診が少なかった。MCIとされた人のフォロー方法がはっきり決まって居らず中途半端だ。
  5. 認知症について気になっている患者さんがこれまでの通院では相談できなかった場合でも検診をきっかけに受診しやすくなったと思う。

 未だ制度が始まったばかりでこれまでの受診者数は対象の100分の1以下である。それでも中央市民病院や西神戸医療センターといった基幹病院には受診者があふれ外来診療に支障が出たため検診受け入れを断ることになったという。一斉受診券発送は受診者増加は新たな混乱を呼ぶ可能性を持っている。

認知症検診の意義

 認知症事故損害賠償については神奈川県大和市は、17年11月に全国で初めて、高齢者を被保険者として公費で保険料を全額負担する制度を始めた。支払われる賠償金は最大3億円。これはすでに登録済みの認知症患者を対象とした制度のため予算規模は小さかろうがそのための増税はうたってない。列車事故があった愛知県大府市や、栃木県小山市も18年6月に同様の制度を導入。19年度からも岐阜県高山市や同本巣市、長野県下條村など複数の自治体でスタートしており、現在までに全国で10を超す自治体が取り組んでいる。それらも損保会社が始めた認知症保険を利用する形なので民間丸投げに他ならず資本の利潤目的に利用されているように思える。「神戸方式」でも年間予算3億円のうち1億くらいは保険会社に流れる算段であろう。
神戸市の売りは認知症検診がセット=診断と早期発見が大切ということのようだ。ただ先述の職員の声にもあったが「認知症と診断することだけが目的の検診になってはならない。」と思う。検診を受けた後のケアとしては医療保険と介護保険、そして地域や家族のケアが始まる。早期発見し現在の困り事、将来の生活についてアセスメントをすることが始まる。介護保険制度の改悪が続いており、認知症があっても身体的に障害がない人は要介護にはならない、今後は要介護1-2の人も介護保険の対象から外すと財務省は主張し始めた。つまり認知症と診断されても介護保険の制度ではケアできないことになりつつある。
「認知症でも困らない地域作り」とか「徘徊しても困らない街作り」とか、呼びかけはされているが、わが町では商店街のシャッターが次々と閉まったままとなっていきコンビニの中で飲食する人が増えて喫茶店も次々と閉店している。大店舗スーパーができ、コンビニが増え続けて、そのタイムセールに高齢者が群がる現状。小規模商店など地域のセーフティーネット=街の力を守り、育てることも前回に述べた居場所作りとともに大切な課題だとおもう。数年前の東灘区ではコンビニ職員にも認知症研修をうけてもらってオレンジリングを付けてもらう取り組みなどがあった。しかし、今のコンビニスタッフは東南アジア系のアルバイトが半数になっている。認知症の周りでいろんな事が変わりながらつながっている。どう変えていけるか、社会に働きかけながら考えるしかない。

ろっこう医療生協 村上正治

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