物忘れが始まると
私も今月66才、近頃はドラマの再放送をみてもストーリーを覚えていないので二度楽しめてしまう。まあこういう物忘れは良いかもしれないな。とは言え日常生活に困るくらいに物忘れが進むといろいろ不便である。今は亡き父親も寝室のごみ箱に「用を足す」ようになり妹が毎日掃除に行っていた。
アルツハイマー病を発症すると10年ほどで身の回りのことができなくなる。「そうなる前に治します」という注射薬が昨年末から使えるようになった。認知症の過半数はアルツハイマーであるから多くの人が救われるのではないかと期待されている。
アルツハイマー病の原因は脳にたまるアミロイドβの塊であるという「仮説」のもと多くの製薬会社がこの物質を取り除くための研究を続けてきたのだ。
まずアミロイドを攻撃するワクチンが多く試されたが「脳炎」が起こってしまいかえってよろしくない。そこでアミロイドβ繊維に対する「抗体」を日本の製薬会社が開発し20年かけて完成したのがレカネマブ(レケンビ®)である。NHKの認知症特番でも取り上げられたのでご存じの人も多かろう。
認知症検診に治療薬の案内も
ところで「認知症神戸モデル」をご存じだろうか?
これは神戸が日本初のチャレンジなのだ。認知症の検診を受けて認知症が見つかった人を受診や介護に案内すると同時に迷子になったときに役立つ「GPS」利用や認知症保険につなぐ制度である。
さらに今年度からは「レカネマブ」を使う適応があるかどうかを調べる検査の費用も補助してくれることになった。(ただし治療費用までは出してくれない。)
ますますレカネマブに興味がわく、実際にクリニックにもすでに数人の相談があった。
使用方法は認知症が進む前の「患者」に2週間に1回の点滴を繰り返すと脳にたまったアミロイドβ繊維が掃除されるという。実際にアミロイドPETという高級画像検査で経過を見ると1年半後にアミロイドが消えていくのが観察されるので、脳にたまったアミロイド繊維が減少していることは明らかだ。しかし、効果としては認知機能低下がもとに戻るわけではなく、その進行が遅くなる程度であった。18か月治療後の知能テストで2〜3点差が出る程度である。
現在はそれ以上治療を続けた場合のデータが明らかでないので、今後はもっと差が出てくるかどうかはわからない。
副作用はないのか?
まず治療費が高いこと、2週間に一回の通院治療を長期に続けないといけないのだが、注射薬が1回11万円以上することだ。3割負担の医療費が月に99,000円と試算される。
そしてレカネマブに特殊な副作用は点滴後に起こるARIA=脳浮腫12.3%や脳出血17.3%に似た脳変化が観察されるという。ケースによっては意識障害、歩行障害などの副作用症状が起る。
さらに点滴直後には26.1%に頭痛、悪寒、発熱、吐き気、嘔吐等の症状が起こったと製薬会社の文書にある。
費用が高いと考えるか、効果に比べて副作用が多すぎると思うかは人それぞれだと思うが、少々期待外れかもしれない。
今日午前に受診した認知症検診の受検者の資料には、レカネマブを希望し、アミロイドPETや髄液検査を受けたいかどうかという質問が追加されていました。
さて、皆さんはここに〇を付けますかな?
健康いちばん 2024/05 四季のカルテ
村上正治(認知症専門医)